本記事では「東方剛欲異聞」のストーリーや新キャラクター、明かされた各種設定などについての考察や感想などを述べたいと思います。

なお、本記事には「東方剛欲異聞」のネタバレが含まれます。
まだ未プレイや未クリアの方はお気を付けください。

追記
2022年10月20日に配信されたNintendo Switch版の追加要素について追記しました。
主にページの最後に記していますので、こちらもネタバレにご注意ください。


ストーリー
今作のストーリーは、幻想郷の各地で謎の黒い水が吹き出したことから始まりました。
その黒い水は異臭を放ち、身体に付くと簡単には落とせないなどの特徴を持っており、とてもではないが生活用水として使える代物ではありませんでした。
当初は黒い水に対して様々な憶測が飛び交ったものの、ある時から飲料用の湧き水や美しい清流にも湧き出たことで情勢は一変し、異変と呼べるような事態となったことで霊夢や魔理沙などお馴染みのキャラクター達が動き出して今作の本編はスタートします。

時系列としては第17.5弾というナンバリングが示すように「東方鬼形獣」の後日談に当たり、「東方剛欲異聞」はストーリー面においても「東方鬼形獣」と密接に関わっています。


黒い水について
幻想郷の住民は外の世界の知識が不十分な者も多いため、霊夢や魔理沙など正体を知らず(または理解せず)に追っていた者もいましたが、謎の黒い水の正体はプレストーリーが公開された時点で多くのプレイヤーに予想されていた通り石油でした。
最初に霊夢ルートと魔理沙ルートのどちらを選んだ場合でも、第3話と比較的早いうちに勇儀に教えられる形で、プレイヤーもキャラクター共々黒い水の正体が石油だと知ることとなります。

ただ、そう簡単に事が運ぶわけもなく、ストーリー全体の中盤の山場に当たる神奈子ルートのラスボス戦で、幻想郷で湧き出た石油の真の正体は血の池地獄の呪われた血液という衝撃の事実が判明します。
地球の血液と称される石油は憎悪にまみれた有機物であり、作中では「生命の恐怖、哀楽、憎悪、怨嗟の全てがこの液体の正体」と饕餮によって本質が語られました。


ストーリーの結末
事の顛末から言うと、此度の幻想郷の各地で石油が湧き出た異変の真の黒幕は、饕餮尤魔ではなく摩多羅隠岐奈でした。
隠岐奈の計画は、わざと石油を地上に流出させることで血の池地獄の石油を独り占めしようとしていた饕餮を地上の敵に仕立て上げ、全てを解決した後に石油を自分の管理下に置くというものだったのです。
結果として計画は成功し、脅威であった饕餮(血の池地獄の悪意を吸収した個体)はフランによって破壊され、隠岐奈と再生した別個体の饕餮(地上の欲を吸収した話の出来る個体)が血の池地獄を管理する共同管理者となりました。

最終的に見れば、今作のストーリーは隠岐奈の一人勝ちということになります。
饕餮の畜生界のみならず地上の欲を全て手に入れようする企みは頓挫し、その他のキャラクターも大なり小なり隠岐奈の起こした異変に振り回されていただけでした。
劇中に登場していない他の賢者などの動向は不明でしたが、今回の一件においては隠岐奈が他の人物より一枚上手であったのは間違いないでしょう。


キャラクター
まずは今作で登場した既存キャラクター達の活躍を振り返りながら、ストーリーについて色々と考察してみたいと思います。
なお、今作のプレイアブルキャラクターは全て水に関する二つ名を持ちます(逆に今作では非プレイアブルの既存キャラクターには二つ名が設定されていません)。

博麗霊夢 小夜時雨の巫女
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東方Projectの主人公としてお馴染みの博麗霊夢は、今作でもプレイアブルキャラクターとして登場しました。
二つ名の「小夜時雨の巫女」の時雨とは晩秋から初冬に降る雨のことで、小夜時雨でそのまま夜に降る時雨となります。

自身のルートでは湧き出てきた黒い水を調査するため地底に向かうも、最後は辿り着いた石油の海で饕餮に一方的に追い払われてしまいます。
道中でも知識不足で神奈子に言いくるめられる場面があった上、プレイヤーの遊ぶルート的にはトップバッターということもあってかあまり活躍できず、饕餮に対しては打つ手なしという状態でした。
今作のラストシーンであるフランルートのエンディングでの会話からしても、結局霊夢(と魔理沙)は石油の真の正体に最後まで気付かなかった可能性も高そうです。
ただ、フランルートでは直接フランに腑抜けになったと指摘される場面があり、「東方紅魔郷」で初めてフランの下にやって来た霊夢は「全てを破壊する目をしていた」と述懐されるなど、逆に今後のフラグとも取れるような会話も行われています。
果たして、今後霊夢はフランと出会った時のような鋭さを取り戻すのでしょうか。
長年主人公を務めたキャラクターながら、まだまだ霊夢は可能性を秘めているのかもしれません。

スペルカード
今回、霊夢の使用するスペルカードは全て霊符となっており、お馴染みの陰陽玉を使うものと過去の小数点作品で何度か見られた調伏を名に冠するものの2系統を使用します。
また、名称は不明ですが、自機としても水解放のスペルカードで夢想封印のような攻撃を行います。
Switch版の追加ストーリーでは、戦闘場所である血の池地獄の影響を受けたのか、血に染まったかのような弾幕を使用します。

・霊符「理由無き無差別調伏」
・霊符「理由無き陰陽玉乱舞」
・霊符「至極不条理な無差別調伏」
・霊符「汚染された陰陽玉乱舞」

Switch版より追加
・血呪「無差別呪殺調伏」
・血呪「血まみれた陰陽玉乱舞」
・「旧血の池地獄に暴力の蓋



霧雨魔理沙 湿地の魔法使い
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霊夢と並んで弾幕アクション作品皆勤賞となる霧雨魔理沙は、もちろん今作でもプレイアブルキャラクターとして登場します。
二つ名は「湿地の魔法使い」と、おそらく湿地と魔理沙の代名詞的な茸の一種であるシメジタケをかけたネーミングとなっています。

自身のルートでは霊夢と同じく饕餮に太刀打ちできずに地上に戻されてしまい、その後の他キャラクターのルートでもただ魔法の森にいたところを襲撃されるなど、今作のプレイアブルキャラクターの中では最も出番に恵まれなかった印象です。
ただ、勁牙組の驪駒早鬼に気に入られていることが言及される等、キャラクター面の掘り下げはしっかり行われており、出会った人物全てに覚えられていた交友関係の広さは健在でした。

スペルカード
今回の魔理沙は森符という新たな種類のスペルカードを使用します。
魔法の森が直接ステージとして登場することもあってか、今作では魔理沙と魔法の森との繋がりを感じさせる描写も幾分か見受けられました。
Switch版の追加ストーリーでも、キノコを題材としたスペルカードを使用します。

・森符「バイオレントトリコローマ」
Switch版より追加
・火符「バイオレントカエンタケ」


八坂神奈子 神水を湛えた湖の神
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八坂神奈子は弾幕アクション作品だと「東方非想天則」にて早苗のオプションとして姿を見せていたことはありますが、本人がプレイアブルキャラクターを務めるのは今回が初めてです。
今作の二つ名では、「神水を湛えた湖の神」と湖の神であることが強調されています。

先端的な技術革新を好み、外の世界のエネルギー問題にも詳しいと、今作の題材にぴったりなキャラクターであり、守矢神社の管理している旧地獄の核融合炉も今作では舞台の一つとして登場します。
自身のルートでは石油の調査のため地底に潜った末に血の池地獄で饕餮と戦い、倒すことはできなかったものの、石油の噴出を止めるには協力するしかないと判断して饕餮と秘密の契約を結びました。
しかし、神奈子は自身のエンディングで地上に石油が湧き出たことを自然現象と結論付けており、その後のフランルートで立て続けの異常事態から第三者による意図的な流出の可能性を思い浮かべるも、最後まで異変を裏で操り暗躍していた真の黒幕である隠岐奈の存在には気付くことができませんでした。
ただ、水没した核融合炉の水をすぐに戻せると発言するなど神としては間違いなく強大であり、外の世界の科学的知見も相まって大物としての貫禄は作中を通してより一層高まったように思えます。

スペルカード
船上で村紗と戦う際は名前が微妙に変わるなどの細かい要素はありますが、基本的に神奈子の使用するスペルカードは3系統です。
今作ではアクションゲームとして風や御柱を使った豪快な技を見ることができます。

・風符「神地嵐」
・御柱「オンバシラ揺曳弾」
・御柱「オンバシラバンカーバスター」
・風符「船上神地嵐」
・御柱「船上オンバシラ揺曳弾」
・御柱「オンバシラトーピドゥ」



村紗水蜜 水難事故の権化
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村紗水蜜もプレイアブルとして登場するのは初めてとなるキャラクターです。
「水難事故の権化」という二つ名の通り、後述するある途轍もないものの底を抜いたりと今作では舟幽霊として様々な面で本領を発揮しました。

船長らしい新衣装のコートを羽織った姿で登場し、水没したステージを自前の舟で駆け回るなど村紗はある意味最も今作に適合したキャラクターでした。
聖の命を受けて地上に湧き出てきた黒い水を調査するため旧地獄へ向かった村紗ですが、驚くことに無限の水量がある三途の河の川底に穴を開け、大量の水を旧灼熱地獄に流し込み水没させることで冷却するという荒業を行いました。
自分で水を生成したわけではないとはいえ、核融合炉の火さえ消したその所業は、神である神奈子を驚かせるレベルの行為です。
この村紗の行動はストーリーの至るところに影響を及ぼし、他のキャラクター達の動向に大きく関わったほか、自分も無事血の池地獄に辿り着いて目的を達成することができました。
また、今作の村紗は仏教徒としての一面も多く見せており、聖に教えられた真実を見せる真言で血の池地獄の真の姿を暴く描写もありました。
(その後解かれてしまいましたが)血の池地獄も一時的に聖の呪法で鎮め、完全に破壊はできないまでも饕餮も倒して命蓮寺に帰還するなど、今作での村紗は大活躍したと言って間違いないでしょう。

スペルカード
今作では水上戦で本領を発揮した村紗の姿が見れます。
舟が浮き沈みをしたり、水中から大量の錨を呼び出したりと派手な演出も多く、自らが水没させた地形を一番に有効活用しているキャラクターはやはり村紗のようです。

・時化「ストーミーセーリング」
・沈没「強欲な亡者達の海域」
・舟符「キャプテンムラサの不幸な出航」



依神女苑&紫苑 全てを手に入れた石油姉妹
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依神女苑と依神紫苑も弾幕アクション作品の前作である「東方憑依華」に引き続き、プレイアブルキャラクターとして参戦しました。
二つ名は「全てを手に入れた石油姉妹」と、この世の全てが買える程の富豪になるという石油を手に入れたことがそのまま二つ名に反映されています(ただし、実態は後述の通り…)。

あの女苑と紫苑の依神姉妹が、石油王を思わせる新衣装に身を包み再登場を果たしました。
メタ的な観点から見ると、「東方心綺楼」から続く空中戦弾幕アクション三作品の最終作となる「東方憑依華」で初登場したため、僅か一作で出番が終了してしまうことを考慮されて続投した可能性があります。
少なくとも「東方憑依華」のエンディングから「東方茨歌仙」の紫苑登場回まで姉妹でそれぞれ別行動をしていたこともあって、依神姉妹が再びタッグを組んで登場したことは驚きを持って迎えられましたが、どうやら仲も悪くはなっていないようで、今作でも独特で軽快な掛け合いをしっかり披露してくれます。

石油のおかげて裕福になったため、女苑は疫病神改め石油王、紫苑も貧乏神改め富豪神を自称しており、ラスボスである饕餮と同等かそれ以上に今作のテーマであろう強欲さを発揮していました。
ただし、会話の内容などから推察するに、実際に彼女らがやっていたことは、持っている石油を価値のある物と吹聴することで自分たちをお金持ちに見せかけてツケ払いや詐欺などをしているだけの可能性が高いです。
そのため「全てを手に入れた石油姉妹」の実態は、本質的にはこれまでと同じく騙しなどで他者からお金を巻き上げているだけかと思われます。
よくよく考えれば、石油の資源としての価値がほとんどの者に理解されていない幻想郷(地上)で石油を持っていたから富豪になれたというのも不自然な話であり、地底でも勇儀に「そんな臭い水で温泉が買えると思うな」と言われてしまっています。
石油の真相を知って手放したエンディング後には、石油を持っているふりをするだけでもお金を生み出せることに気付いており、所持していない石油を担保にお金を借りるなどしていました。
実際、現実世界でも石油(原油)は先物取引の商品となっており、物の価値というものを考えさせられるエピソードです。

依神姉妹はそんなことをしていたため、作中ではその強欲さを他のキャラクターに非難されることも多々ありました。
ただ、石油によって地上が汚染され始めているのにそれを気にも留めていなかったことを神奈子に怒られた際には、「石油は絶対に社会を裕福にするわ」「貧困に勝る悪はない」「裕福なお前には判らないんだろうけど!」などと紫苑が反論する場面もあり、ただの利己的でさもしい姉妹だとは言い切れない面も見せています。
化石燃料(石油)には負の側面もあるとはいえ、それをある程度でも使用しなければ我々現代人は便利な生活を送れないことも事実です。
依神姉妹や饕餮のように石油を求める強欲さについても、(幻想郷の住民はともかく)我々が一元的に悪と断言することはできないのではないでしょうか。

スペルカード
今作での依神姉妹は手に入れた石油を題材としたスペルカードを使っており、前作の「東方憑依華」とは色々な意味でイメージが一新されています。
ただそれでも、自分の体を使って石油を掘るなど得意の肉弾戦要素は健在した。

・石油「フレイマブルレイン」
・石油「貧乏神的な原油流出汚染」
・油井「疫病神的な天空掘削機」



フランドール・スカーレット 紅い血液の悪魔
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フランドール・スカーレットは、「東方剛欲異聞」で初めてプレイアブルキャラクターに選ばれました。
「紅い血液の悪魔」の二つ名が示すように、実際のゲーム内でも吸血鬼の設定に恥じない超性能で大暴れします。

弾幕アクション作品にまさかの初登場を果たしたフランは、「東方剛欲異聞」のラストを飾るプレイアブルキャラクターにして、選んだルートによってストーリーが分岐する特別待遇での登場となりました。
ストーリーでは他キャラクターが成し遂げられなかったラスボスの饕餮と決着を付ける大役を担っており、顔見せは女苑&紫苑ルートの終盤と遅いものの、最終的には今作の実質的な主人公とも呼べるほどの活躍をしています。

元々、フランは東方ProjectのWindows版初作品である「東方紅魔郷」でパッケージを飾りエキストラボスとして登場して以来、その設定上極めて人気が高いにもかかわらず出番や描写の少ないキャラクターの筆頭として知られていました。
直近の大きな出番としては漫画作品の「東方智霊奇伝」以来となったのですが、(「The Grimoire of Usami」で1ページだけとはいえ姉のレミリアと外出する描写はありましたが)ついに今作では本格的に紅魔館を出て戦闘をする、それどころか異変解決に乗り出す姿が描かれることとなりました。

今回、彼女が戦う理由は「ただ、破壊しがたい物を破壊したいだけ」と、非常にシンプルかつ異変の解決は二の次な理由となっており、ストーリーでも隠岐奈に誰も破壊できなかった饕餮の存在を知らされ、嬉しそうに饕餮を破壊することを承諾しました。
その後、饕餮と戦う前にまず流水の中での戦闘に慣れるため、隠岐奈の扉でのワープを駆使して各地で戦いを繰り広げることとなります。
今作でのフランは破壊神を自称して破壊衝動を隠す気がなさそうなものの、隠岐奈の用意した試練の相手自体とはちゃんと戦っており、目的さえ合致すれば聞き分けのいい一面もあることが分かります。

試練を終えた後は饕餮と戦うこととなるのですが、前述したように選んだルートによってストーリーが分岐するため、(血の池地獄の悪意を吸収した)饕餮を完全に破壊して決着を付けられるのは一番難しい強敵と繋がる扉ルートのみとなります。
その強敵と繋がる扉ルートでは、最終的に巨大化し「お腹を空かせたグリードモンスター」を発動した饕餮を、林檎型の全てを破壊する弾を吸い込ませることで見事完全に破壊することに成功しました。
他のどのキャラクターも成し遂げられず、畜生界でも向かうところ敵無しとされていた饕餮の一個体を完全に破壊したフランは、文句なしに「東方剛欲異聞」で最も活躍したキャラクターと言っていいかと思われます。

スペルカード
今作のフランの使用するスペルカードも過去作の命名法則を踏襲しており、3種類中2種類は今作でも禁忌とスペルカード名に付いています。
また、控えめな相手と繋がる扉ルートのエンディングでは、フラン曰く喰らって生き残った奴はいないスカーレットニヒリティなる全てを破壊するスペルカードを使用していますが、結局その段階では饕餮を完全に倒すことはかないませんでした。

・禁忌「レックレスバレット」
・禁忌「ケルベロスクリッパー」
・「掌中の破壊者」



多々良小傘
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多々良小傘は敵としてのみ登場するキャラクターです。

今作では魔法の森から地底へと繋がる洞窟(ステージ名は地霊虹洞)にて登場し、通りすがりのプレイアブルキャラクターと戦うことになります。
ストーリーでの立ち位置はたまたま通りすがっただけの人というポジションで、黒い水についても独自に調べているもののよくわかっていない様子でした。
今作の敵キャラクターの中では唯一、地底(旧地獄)や地獄、畜生界などと全く関係しないキャラクターであり、これまで登場した「東方星蓮船」や「東方神霊廟」の時と同様に、勢力争いという面では蚊帳の外の扱いです。
キャラクターとしては、村紗と知人であることがピックアップされるなどしています。

スペルカード
過去作でも雨や水を題材としたスペルカードを使用していた小傘は、今作でもそのような趣旨のスペルカードを使用しています。
ストーリー上の出番は脇役だったものの、水を前面に押し出した「東方剛欲異聞」という作品の敵キャラクターとしては非常にマッチしている妖怪だったとは言えるでしょう。

・雨洞「レイニーケイブ」
・水砲「グラウンドウォーターストリーム」
・跳傘「大時化サプライズ」



黒谷ヤマメ
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黒谷ヤマメは敵としてのみ登場するキャラクターです。

登場場所は小傘と同じく魔法の森から地底へと繋がる洞窟(地霊虹洞)で、獲物を狙うために洞窟に住み着いていたようです。
獲物(おそらく人間)を直接狙うなど妖怪らしい妖怪であり、作中での立ち位置もあくまでプレイアブルキャラクターが通りかかった所に襲い掛かっただけでした。
しかし、キャラクターとしては黒い水が血の池地獄から噴出していることを知っているなど地底の事情に精通しており、今回の異変を地霊殿の彼女(古明地さとり)では処理しきれないと発言し、かつて旧地獄にいた地獄の鬼神を懐かしむなど、地底の妖怪として古参であることを示唆するかのような描写もありました。
初登場の「東方地霊殿」と同じくゲームで登場するのは序盤ですが、土蜘蛛という種族を含めて中々侮れないキャラクターです。

衣装も基本的にこれまでの物と変わりありませんが、蜘蛛の足をイメージしたであろう四本のベルトのようなものが追加されており、ヤマメ自身の四肢と合わせて蜘蛛の八本脚を再現しています。
この新衣装や天井からぶら下がるアクションなどもあって、今作のヤマメはスタイリッシュな印象を感じさせています。

スペルカード
スペルカードでは毒の水を使って攻撃してきます。
ゲーム上は水が紫色になる程度の演出に留まっていますが、弾幕ごっことはいえ毒での攻撃は実際かなり危険そうです。
Switch版の追加ストーリーでは戦闘場所の都合で名称違いの新スペルカードが新たに増えるなど、非プレイアブルキャラクターの中ではそこそこ優遇されています。

・毒雨「アンサニタリーレイン」
・毒蜘蛛「ヴェノムウェブ」

Switch版より追加
・油水「オイルバーニングレイン」
・血蜘蛛「インピュアブラッドリーウェブ」


星熊勇儀
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星熊勇儀は敵としてのみ登場するキャラクターです。

初登場の「東方地霊殿」で旧地獄(旧都)に登場した勇儀は今作でも旧地獄の温泉街に登場し、同時に旧地獄温泉街の元締めであることが判明しました。
地底の大物妖怪らしく黒い水の真の正体ももちろん知っており、霊夢と魔理沙にそれが外の世界で石油と呼ばれていることを教えたのも勇儀です。
大幅に年下の人間である霊夢や魔理沙にも名前に殿を付けて呼ぶなど礼儀正しく、その二人と戦った理由も危険な血の池地獄に向かわせないためと、今作ではこれまで以上に好人物である描写が多く描かれています。

今作の勇儀の衣装は「東方心綺楼」の背景で登場した際と同じく、初登場時の体操服風の服装ではなく着物となっています。
おそらく勇儀の着物衣装は「東方地霊殿」の一部店舗での購入特典用にalphesさんが描いたものがベースとなっており、黄昏フロンティアとは縁が深い衣装になります。
今作で再び採用されたのも、そのような経緯があるためかと思われます。

スペルカード
今回の勇儀のスペルカードは温泉を題材としたものとなっています。
己の肉体を使って豪快に温泉を湧き出させる姿は必見です。

・湧泉「熱鬼掘削撃」
・怨泉「極楽温泉地獄」



霊烏路空
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霊烏路空は敵としてのみ登場するキャラクターです。

最近は核融合炉に紛れ込んだ石油を排除する仕事をしているらしく、石油の貯蔵層(血の池地獄)を目指して降下するプレイアブルキャラクターを不純物と勘違いし、途中の旧灼熱地獄にて戦闘することとなります。
お空はいきなり上空から奇襲を仕掛けてくるため、お空が一言も発さずに決闘開始のカットインが表示される特殊な形式で戦闘に突入し、ちゃんと自己紹介するのは戦闘の合間となります(フランルートを除く)。
勘違いから攻撃を始めるなど全体的に鳥頭な描写が目立ち、霊夢からは鳥弾頭と呼ばれてしまっていました。
ただ、途轍もない水量の三途の川の水で冷やされた旧灼熱地獄を再び燃え上がらせるなどその力は強大であり、勘違いはしながらも与えられた仕事に対して真面目に取り組む素直な面もお空は変わっていませんでした。

スペルカード
旧灼熱地獄では蒸発してしまうため水はほとんど無く、お空の使うスペルカードも従来通り炎を使った技ばかりです。
最終スペルの「太陽を盗んだ鴉」は鍵括弧前に文字の無い大技ですが、自らも燃え尽きるつもりで使用するため発動し続けると自爆してしまいます。

・獄炎「インフェルノバーナー」
・獄炎「ディヒューズヘルファイア」
・「太陽を盗んだ鴉」


庭渡久侘歌
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庭渡久侘歌は敵としてのみ登場するキャラクターです。

今作での久侘歌は、村紗が川底を開けたため水が漏れ出た三途の河を修復するために旧灼熱地獄で仕事をしていました。
そのため、久侘歌とは業火が消えて水没した滅多にお目にかかれないであろう旧灼熱地獄で戦うこととなります。
職業柄血の池地獄の危険性も熟知しており、プレイアブルキャラクターに忠告をしてくれるなど相変わらず人物としては礼儀正しく公正な姿勢を見せていました。

時系列上で「東方剛欲異聞」の直近の作品となる「東方鬼形獣」で初登場したキャラクターとして、久侘歌は唯一今作に登場したキャラクターとなります(名前のみ言及されていた饕餮を除く)。
水との繋がりや地獄と関わりのある仕事をしている等、今作と関連する要素は多々あったとはいえ、予想の面ではかなり意表を突いた人選だったかと思われます。

スペルカード
久侘歌のスペルカードは、ニワタリ神らしく鳴き声のように音を題材としたものが多くなっており、コケコッコーの文字を文字通り直接飛ばして攻撃するなど非常にインパクトの強いものもあります。
また、特筆すべき点として幽霊を大量に扱っていることも挙げられます。

・長鳴「目覚めよ、葬られた幽霊達よ」
・笛符「幽霊達よ、居るべき場所に還れ」
・庭渡「見渡しのよい旧地獄」
・庭渡「アルゴリズミックファントム」


饕餮尤魔 無敗の剛欲同盟長
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饕餮尤魔は今作唯一の新キャラクターで、どのキャラクターのルートでもラスボスとして登場します。
「無敗の剛欲同盟長」という二つ名を持ち、詳しくは後述しますが、二つ名に無敗の名を冠するだけあって相当な実力を持った人物です。
畜生界の他の組長達と同じく自らの種族名と同一の苗字をしており、「強欲な奴をみると生前を思い出してざわつくんだ」などの発言から、経緯は不明ですが少なくとも一度亡くなっているものと思われます。
また、設定テキストで子羊の姿の神獣とされており、見た目は幼く見えますが歴とした神獣のようです。
能力は「何でも吸収する程度の能力」を持ち、何でも食べるとされる元ネタの饕餮の特性をそのまま拡張したような能力となっています。

ナンバリング上の前作となる「東方鬼形獣」で繰り広げられた畜生界での一連の騒動の裏で、その隙を突いた饕餮は旧血の池地獄に目を付け、畜生界のみならず地上の欲を全て手に入れようと企んでいました。
本記事でも前述したように、地上に石油が噴出する異変は隠岐奈が意図的に起こしたものなので、饕餮自身は地底深くでひっそりと目的を達成しようとしていたことになります。
しかし、饕餮の企みは隠岐奈に察知されており、隠岐奈が地上に漏出させたせいで石油の存在は幻想郷中に広まり、異変を解決しようと霊夢ら今作のプレイアブルキャラクター達が地底に押しかけ、最終的には隠岐奈に鍛えられたフランによって血の池地獄の悪意を吸収した饕餮は破壊されてしまいました。
ただ、強敵と繋がる扉ルートのフランには敗れて一度破壊されてしまったものの、貪欲の塊そのものである饕餮は今度は地上の欲を吸収して再生し、結局は血の池地獄の共同管理人の一人として落ち着きます。

充分に訓練を積んだフラン以外には誰も破壊できなかっただけあって饕餮の戦闘能力は恐ろしいほど高く、二つ名も吉弔八千慧や驪駒早鬼の二つ名がただ組長とされている中、唯一「無敗の剛欲同盟長」と無敗が枕詞に付いているだけあって畜生界では敵無しで、戦いを挑むものすらいなかったとのことです。
さらに、饕餮が一筋縄ではいかないのは、その強さに反して以外にも無駄な争いは避けるタイプの人物である点です。
今回の異変でもフランに破壊された後は素直に実力を認め、畜生界を牛耳るために隠岐奈と協力関係を結ぶなど臨機応変な対応を見せていました。

「東方鬼形獣」や剛欲同盟について
「東方剛欲異聞」では、前作の「東方鬼形獣」で判明しなかった不明点の一部が明かされました。
「東方鬼形獣」では苗字(種族名)しか語られなかった饕餮の正体を始めとして、饕餮が畜生界に不在だった理由や剛欲同盟の組織構造もいくらか判明し、オオワシ霊達が当てはまらない圧倒的な大きさを持つ構成員がいることが示唆されていた理由も巨大化した饕餮を指していたものだとすれば説明が付きます。
畜生界で敵無しの饕餮率いる剛欲同盟が、埴安神袿姫にプライドだけ高くて実力は他に劣る事で有名と言及されていたのも、自らをわざと過小評価させていると思われる饕餮の噂を袿姫が真に受けたのかもしれません。

饕餮と埴安神袿姫やその部下の杖刀偶磨弓との相性は直接言及されていませんが、設定テキストによると実体霊体、有機体無機体問わず、何でも丸呑みし食べてしまうそうなので、動物霊達が太刀打ちできなかった実体を持つ埴輪兵団も実は難なく対処できた可能性が高いです。
それなのに袿姫をあえて放置して畜生界に混乱をもたらすことで注目をそちらに集め、自身はひっそりと単独で血の池地獄を狙うあたりに饕餮の賢さが垣間見えます。

元ネタ
饕餮尤魔の元ネタは、そのまま名前や種族名からも分かるように中国神話に語られる饕餮という怪物です。
体が羊(または牛)で曲がった角を持っているとされていることから、饕餮尤魔も子羊の姿と設定されており、外見にも頭に付いた羊の角や尖った耳、有蹄類特有の横に長い瞳孔など羊の特徴が多数反映されています。
ただ、饕餮尤魔はインパクト抜群なギザギザの歯のように草食動物の羊とはかけ離れている点も持ち合わせており、ただの子羊ではない肉食動物的な異質さも持ち合わせています。

テーマ曲
饕餮はテーマ曲が2種類用意されており、最初に石油の海で戦闘する際は「強欲な獣のメメント」、棄てられた血の池地獄が真の姿を現した後は「有機体全てのメメント ~ Memory of Fossil Energy.」と、条件次第で流れる楽曲が変わります。
あくまで考察ですが、曲名やシチュエーションからして「強欲な獣のメメント」は元々の饕餮に近いテーマ曲、「有機体全てのメメント ~ Memory of Fossil Energy.」は血の池地獄の影響を受けた状態の饕餮のテーマ曲な気がします。
今後もし饕餮がゲームなどに再登場した時、テーマ曲の扱いがどうなるのかは気になるところです。

スペルカード
饕餮の「何でも吸収する程度の能力」は、文字通り何でも呑み込んで吸収してしまうことができるというもので、呑み込んだ物を理解して自分の力にしてしまうことができるため、今作では石油の海(血の池地獄)に影響を受けたと思われるスペルカードを多用してきます。
ただ、各段階で最後に使う、剛欲「この世に存在してはならない暴食」と「剛欲な獣神トウテツの夕餉」、それに「お腹を空かせたグリードモンスター」は、名称や吸収を使う技の形式からして饕餮が元々持っていた技の可能性が高そうです。

・採取「世界の在り方を変える黒い水」
・蒸留「強引で未熟な蒸留装置」
・剛欲「この世に存在してはならない暴食」
・採血「ガイアの血液」
・精錬「呪われた血液の追憶」
・「剛欲な獣神トウテツの夕餉」
・「お腹を空かせたグリードモンスター」


摩多羅隠岐奈
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摩多羅隠岐奈は饕餮ルートのラストまでは会話にのみ登場するキャラクターです。
「東方天空璋」で初登場して以来、書籍作品でも度々暗躍するなどしていましたが、今作ではついに2度目のゲーム出演を果たしました(「秘封ナイトメアダイアリー」を含めれば3度目)。
本人こそ戦わないものの前述したように今回の異変の黒幕であり、フランに饕餮を一度破壊させて自らに都合のいい契約を結ぶなど、ストーリーでは非常に重要な役割を務めています。
フランや饕餮など今作で新たに隠岐奈と関係を築いたキャラクターもいるため、今後の活躍にも期待できそうです。


洩矢諏訪子
雲居一輪
聖白蓮

これらの3キャラクターはエンディングにのみイラスト付きで登場します。
気になる方はゲームをプレイしてぜひ自分の目で確かめてみましょう。


楽曲
「東方剛欲異聞」では、ZUNさんが新たに作曲した楽曲とziki_7さんが新たに作曲した楽曲、それにZUNさんの過去曲をziki_7さんがアレンジした楽曲がゲーム内で使用されました。
今作の収録楽曲の特徴としては、過去の道中曲がアレンジされて会話時のBGMとして使用されている点が挙げられます。
流れる場面に合わせて大胆にアレンジされている楽曲も多く、戦闘用にアレンジされた各キャラクターのテーマ曲とは一味違う仕上がりとなっていました。

「東方剛欲異聞」の収録楽曲については、黄昏フロンティア公式ホームページの「強欲な獣のムジカ」の特設ページに一覧で載っています。


ZUNさん作曲の新曲は、饕餮のテーマ曲の「強欲な獣のメメント」と「有機体全てのメメント ~ Memory of Fossil Energy.」の2曲でした。
饕餮はステージに合わせてテーマ曲が2曲用意されている破格の扱いを受けており、初登場作品の時点でこのような待遇のキャラクターは歴代でも非常に限られています。


石油について
最後に、「東方剛欲異聞」の異変の題材となり作中で重要な役割を果たした石油について、現実世界の視点を含めて色々と考察してみたいと思います。
(現実世界の)石油は、石炭や天然ガスなどと同じく化石燃料の一種とされており、生物由来の有機物だという説が現代では有力となっています。
ただ、植物の化石として原形を留めている石炭とは異なり、石油は生物由来といっても原形を留めておらず、一目見ただけではこれの大元が何だったのか分かりません。
その由来について歴史上様々な説が提唱されてきた点や、資源として有限なのか、あとどれほど採掘可能なのかなど、これまで様々な観点から謎が語られてきたことも、今回石油が題材として選ばれた理由の一つなのかもしれませんね。

石油は近現代において最も重要な資源と言っても過言ではなく、現実世界では石油を巡って文字通りの戦争が過去から現在に至るまで何度も繰り広げられてきました。
第一次世界大戦中にフランス首相であったジョルジュ・クレマンソーが「石油の一滴は血の一滴の価値がある」という有名な言葉を残したように、最重要エネルギー資源である石油を掌握することはそのまま世界を制することにも繋がります。
「東方剛欲異聞」のステージタイトルで石油王に「せかいをてにいれたもの」と読み仮名が振られていたのも、こちらの世界でなら強ち大仰な肩書ではなかったはずです。


Switch版の追加要素
2022年10月20日に配信されたNintendo Switch版の追加要素として、待望となる今作の新キャラクター饕餮尤魔のストーリーモードが追加されました。
これらの追加要素は既にアップデートとしてPC版にも適用されていますので、まだ遊んでいない方はプレイしてみましょう。


饕餮尤魔ルート
饕餮ルートはフランの強敵と繋がる扉ルートのその後を描くストーリーとなっており、時系列的にも今作の真のラストとなるストーリーです。
血の池地獄の管理人を任されることになった饕餮ですが、不可解なことに立ち入りを禁止されている血の池地獄に複数人の来訪者が観光客気分で訪れる事態に出くわします。
原因を探るために各地を巡ることになった饕餮は、最終的に自分を一度破壊しライバルのような関係となった吸血鬼のフランが、当時唐突に血の池地獄に現れた件を怪しむようになります。
そして、紅魔館でフランとも戦い秘密を聞き出そうとしたその時、饕餮の目の前に現れたのは石油流出の黒幕である隠岐奈でした。
血の池地獄の共同管理人である隠岐奈は本来ならば饕餮の協力者なのですが、血の池地獄に観光客が訪れるという異常事態にお互いの主張は噛み合わず、一度関係が決裂し戦闘することになります。
こうして一戦交えることになった饕餮と隠岐奈ですが、血の池地獄に観光客が訪れる事態の原因となる黒幕は別におり…。


摩多羅隠岐奈について
摩多羅隠岐奈はこれまでのルートで黒幕として暗躍するも、直接戦闘しないという特殊な立ち位置のキャラクターとして登場していましたが、ついに饕餮ルートにて敵キャラクターとして登場し、今作の最終ボスという真のラスボスとも言える大トリを務めることになりました。

ただ、黒幕として暗躍していたフランルートまでとは打って変わって、饕餮ルートでは血の池地獄観光の原因を探る饕餮とすれ違いから戦闘することになるという、半ば巻き込まれた形で表舞台に出ることとなりました。
肝心の戦闘能力の方は、腹の探り合いをしながら饕餮と互角に戦うなど、幻想郷の賢者なだけあって折り紙付きであり、底の知れない秘神らしい力を見せつけました。
隠岐奈と戦闘する場所も???という名称不明の異空間となっており、安易に後戸の国と明言されないなど隠岐奈のミステリアスさを際立たせています。

スペルカード
今作で隠岐奈が使う一部のスペルカードは、画面後方に出現させた扉から水(温泉)や石油を呼び出すなどして攻撃するという、今作の特徴を活かしたものとなっています。

・扉符「温泉客の安らぐ背中」
・扉符「太古に失われた背中」
・扉符「咎人達の血生臭い背中」
・「秘匿された時空幻想ツアー」
・「秘められし弾幕界への扉」