本記事では「東方虹龍洞」のストーリーや新キャラクター、明かされた各種設定などについての考察や感想などを述べたいと思います。

↓これまでの「東方虹龍洞」の各考察記事はこちらです(1~3面は体験版時点での考察になります)。










ストーリー
本作のストーリーは、アビリティカードという人間や妖怪などの能力が込められた不思議なカードが幻想郷で流通し始めたので、自機キャラがそれの調査に出かけるというところから始まります。
先行公開された体験版では、カードの売人と戦いながら自機キャラがカードの売買のルールを覚え、3面の最後に鉱坑とされる虹龍洞に突入するところまでが収録されました。

製品版では当然ながらエンディング(とEXTRAステージ)までストーリーは進展し、アビリティカードの謎を解き明かすこととなります。
本作では恒例のバッドエンディングの他に、通常のエンディングとアナザーエンディングが用意されており、アナザーエンディングまで見ないと自機キャラが真相に辿り着けないようになっています。

↓アナザーエンディングに到達する条件については下記の記事にまとめてあります。


本作の異変であるアビリティカードの流通の発端は、山に眠っていた龍珠に目を付けた飯綱丸龍によるものでした。
龍珠の特性を利用して一儲けするための交換したくなる娯楽品を作り、広く流通させて独自の交換専用の通貨システムを構築しようと企みたのです。
しかし、そのためには独自の通貨システムで交換しないといけない理由が必要だったので、市場の神である千亦を利用して厳格な売買のルールを定めさせ、ルールに則って購入された場合のみカードの能力が使えるようにさせました。
結果的には飯綱丸の目論見通り幻想郷中でカードは流通することとなり、飯綱丸は利益を上げることに成功しました。
ただ、千亦を利用していたと思い込んでいた飯綱丸も実際には千亦に利用されており、実はカードの流通は市場の神である千亦の力を取り戻すための祭事でもあったのでした。
こうしてビジネスと祭事という別々の目的でお互い利用し合っていた二人がアビリティカードの流通の首謀者であり、アビリティカード自体は単なる無害な娯楽物だったというのが本作の事の顛末です。


東方香霖堂の最新話について
実は本作のストーリーは「東方外来韋編  2021 Spring!」に掲載された「東方香霖堂」最新話である第九話「価値観のるつぼ」の続編となっています。
その「東方香霖堂」最新話では今まで判明していなかったある幻想郷の重要な設定が明かされ、我々読者と価値観を共有している外の世界出身の菫子を驚愕させました。

霖之助が菫子に行った解説によると、幻想郷は貨幣経済ではなく基本は物々交換しか行われておらず、外の世界から流れついた紙幣も金額(固定された価値)は考慮されず単に持ち運びやすい約束手形のような物として物々交換に使用されているそうです。

そのため、飯綱丸が独自の交換専用の通貨システムを構築したというのは、実はかなり重要なポイントなのです。
いままで貨幣経済がなかった幻想郷で、物を売るたびに通貨システムも同時に広まる今回の取り組み(自機側から見ると異変)は画期的であり、幻想郷の歴史から見ても革新的な出来事といってよいでしょう。
ただ、一見するとただの紙切れにしか見えないアビリティカードが裏でとんでもない価格で取引されるようになったため、霖之助のように鋭い人物は誰かがカードの価値を人為的に操作していることを疑い始めるなどしており、実際今回の異変は特定の人物が幻想郷の価値観を支配するという(外の世界の資本主義的な価値観を持っているプレイヤー視点で見れば)ある意味過去最大級に危険性をはらんだ異変でした。
使用価値ではなく交換価値が重視されるようになるなど幻想郷が資本主義経済に近づいた一大事件であり、今回の異変では姫虫百々世が龍珠を採掘して飯綱丸龍がそれをアビリティカードに加工するなどアダム・スミスが国富論で理論化したシステムである分業も行われています。
このように本作には資本主義的な要素が作品の中核として秘められており、「東方香霖堂」で描写されたそれまでの幻想郷の常識を知った上で遊ぶと更に深く真相を理解できるようになります。


アビリティカードとは
個人的な考察ですが、メタ視点においてアビリティカードは紙幣の暗喩だったのではと思います。

・ルールに則って取引しないと紙切れでしかない
・価値のある物だと複数人が思い込んでいないと意味がない(共同主観の共有)
・価値を定めている存在がいる
・ルールの範囲内で自由に取引されている(自由奔放ではなくスミスの示した法の中での自由競争)
・一枚一枚の価値が違う(金額)
・イラストが描かれている

本編のアビリティカード(紙切れ)自体は無害な物でしたが、本質的な部分はその流通システム(貨幣経済)にありました。
これらの点や「東方香霖堂」での描写を合わせ、そういった結論に結び付きました。


伊弉諾物質について
本編にてアビリティカードの謎は解明されましたが、4面ボスである玉造魅須丸に言及された伊弉諾物質(イザナギオブジェクト)についての謎は依然として残っています。
伊弉諾物質とは、本作で登場した龍珠などを含む未知の鉱物で、物質が誰の所有物でも無かった人類が生まれるずっと前の時代である神代に意味を持っていた物質のことを指します。
これらは物質自体に神にも等しい力が宿っているらしく、伊弉諾物に精通しているであろう魅須丸に掘り起こさないに越したことはないと言われるほどです。
ただ、魅須丸によると今回登場した龍珠は伊弉諾物質の中でもあまり危険度は高くないほうのようで、逆に言えば更に強力かつ危険な伊弉諾物質が存在する可能性はかなり高いといえます。
それに、本作では霊夢の持っている陰陽玉も伊弉諾物質を材料として魅須丸によって作られたことが発覚しました。

なぜ、ここまで伊弉諾物質が注目を浴びているかというと、ZUN's Music Collectionの「伊弉諾物質」という2012年に発表された音楽CDが初出の単語であるからです(CDのタイトルの読みは「いざなぎぶっしつ」)。
「伊弉諾物質」のブックレットでは、2500万年前に完全に消えたイザナギプレートの名残として日本海のメタンハイドレートの採掘場から人工物のような石片が発見され、大ニュースになったことが語られています。
結局、その石片は人工物に見えるという理由で学者からは眉唾物の物として扱われてしまったのですが、なんとメリーはそれと同じような人工物である釣り針とも鍵とも言いがたい形容しがたい形の小さな石を所持していたのでした。
この釣り針とも鍵とも言いがたい形容しがたい形の小さな石というのは、「東方虹龍洞」をプレイした方なら容易に想像がつくと思いますがおそらく勾玉のことです。
また、サナトリウムで療養中にメリーがその石片を入手したという恐ろしい死の匂いが充満した地底奥深くの洞窟の入り口というのも、洞窟である虹龍洞と関係のある可能性があります。
それに、日本神話に登場する天逆鉾や天の岩戸も伊弉諾物質であるとメリーは推測しています。

このように伊弉諾物質はまだまだ多くの謎を秘めており、霊夢の陰陽玉と並んで今後も取り上げられることとなるかと思われます。


新キャラクター
新キャラクターやステージについては書きたいことを全て一記事に載せると長すぎてしまうので、この記事では各新キャラクターについて簡単な紹介や考察、戦ってみて気づいたことや感想を軽く書いておこうと思います。
個々のキャラクターへの本格的な考察については、後日個別の記事で行う予定です。

追記
各キャラクターの個別の記事が書き終わりました。
各記事へのリンクは当ページの冒頭にあります。

玉造魅須丸
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玉造魅須丸は本作の中ではストーリー上唯一アビリティカードの流通に関わらないキャラ(ゲームシステム上は彼女からも普通に購入できます)で、カードの売買や妖怪の山繋がりで関係のある他の新キャラクターたちとは一線を画しています。
出番としてはストーリーの都合上4面ボス(とEXでの会話のみ)ですが、その設定からは本作でも屈指の底知れない実力を感じさせています。
陰陽玉という博麗の巫女の設定の根幹にかかわるキャラクターであり、霊夢とその他の自機とで明らかに会話の反応や呼び方が違うこともあって今後も要注目のキャラクターです。

また、4面でボスと同じかそれ以上に注目を集めたのがそのステージタイトルです。
伊弉諾物質(イザナギオブジェクト)という秘封倶楽部で登場した謎の物質がステージタイトルとなってゲームにも登場し衝撃を与えました。
伊弉諾物質についての詳細な解説は前述した通りです。
そのため、秘封CDである「伊弉諾物質」のブックレットでメリーが持っていた石の正体(勾玉)やメリーが語っていた洞窟が虹龍洞である可能性などが現れ、考察の幅が一気に広がりました。

魅須丸の元ネタとして挙げられるのは、玉祖命という勾玉管玉などを制作していた玉造部という集団の祖先となる神でしょう。
三種の神器の一つである八尺瓊勾玉も玉祖命が作ったとされています。

戦闘面においては陰陽玉の使い手らしく「東方永夜抄」の4面ボスとして登場した際の博麗霊夢の弾幕を彷彿とさせるような攻撃を行ってきます。
また、中ボスとしては異例の耐久戦となる4面中ボスの大きな陰陽玉もおそらく魅須丸が作り出した物かと思われます。

菅牧典
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菅牧典は本作の5面、6面、EX面の3つの面で中ボスを務めるキャラクターで、本作の5面以降で自機がボスと戦う原因に毎回なるなど暗躍します。
立場上は飯綱丸龍の部下なのですが、飯綱丸と千亦の間を取り持つ役であったにもかかわらず飯綱丸が裏切るとそれを面白がっていたりと一筋縄ではいかない性格をしています。

元ネタとして挙げられるのは、そのまま典の種族である管狐という妖怪です。
また。後述する飯綱丸龍の元ネタとして挙げられる飯縄権現が載っている白狐も彼女の元ネタと言えそうです。

戦闘において典が本領を発揮してスペルカードを使うようになるのはEX面に入ってからです。
面によっては戦闘後にライフのかけらを落としたりもするのでどこか憎めないキャラクターでもあります。

飯綱丸龍
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飯綱丸龍は龍珠からアビリティカードを作った張本人であり、本作の異変の発端となる人物です。
大天狗という以前より存在が示唆されてきた天狗社会の中でボスに相当する地位にあるキャラクターとなります。
立場上部下の典と並んで既存キャラとの関係性がとりわけ強いキャラですので、今後天狗としては部下に当たることになる文やはたて、椛との絡みが気になるところですね。

元ネタとなったのは名前からしても前述した飯縄権現でしょう。
飯縄権現は烏天狗の姿をしており、白狐に載っているというのも部下である典との関係として表現されています。

戦闘面だと難易度EASYにおいては歴代5面ボスのEASYの中でも特に攻略が楽な部類なのですが、NORMAL以降になると一変してかなり手強くなります。
レーザーの隙間に潜り込んで避ける系の弾幕が得意か苦手化で戦いやすさが変わるキャラなので、消しても即展開されてアビリティカードでも誤魔化しにくい一部のスペカについては2ボムも視野に入れることになる場合もあります。

天弓千亦
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天弓千亦は本作のラスボスとなるキャラクターで、アビリティカードの売買にルールを設けることでカードに込められた能力を本来の所有者から完全に切り離し、今回の異変である他者の能力が込められたアビリティカードの流通を幻想郷で引き起こしました。
自分のことを利用しようとした飯綱丸龍を逆に利用し返すなど智謀にも長けており、当初は力を失っていましたが今回の異変を祭事に見立てて力を取り戻し自機の前に立ち塞がることとなります。

元ネタが単一ではなく様々な要素が組み合わさって市場の神という造形を形作っているタイプのキャラクターであり、本作の中でも特に元ネタの考察のしがいのあるキャラです。
ただ、キャラクターのベースとしては虹が出た場所に市場を開いた古代の風習が根底にあるのは間違いないと思います。
そこから派生し、見えざる手などの市場に関する様々な事象が組み合わさって、千亦というキャラクターは作られたのではないかと思います。

戦闘では最初の初見殺しスペカに驚かされた方も多いかと思われます。
ただ、全体的に見るとそこまでトリッキーな攻撃はしてこなく、最終スペルにボムバリアがないこともあって、歴代の6面ボスの中ではかなり簡単な方ではないかと思います。

姫虫百々世
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姫虫百々世は本作のEXTRAボスとなるキャラクターで、飯綱丸の友人としてアビリティカードの原料である龍珠の採掘をしておりました。
魅須丸以外の本作の他キャラクターと同様龍珠の危険性には気づいておらず、採掘を止めに来た魅須丸とお互い批判し合うなどかなり好戦的な性格です。
あと、何気に東方で初の一人称が俺の女性キャラクターとなります。

元ネタはそのまま大蜈蚣でしょう。
ムカデに関する逸話として有名な藤原秀郷に退治された蜈蚣は大蛇(龍)の一族を苦しめるほど強大で、最終的には退治されてしまうとはいえ百々世が龍殺しの最強の妖怪と恐れられている設定に説得力を持たせています。
ただ、別の逸話では戦場ヶ原で赤城山の化けた大蜈蚣が男体山の化けた大蛇に敗れたという伝承も伝わっており、本当のところ龍を食べられるのかどうか誰も知らないと百々世の設定テキストで濁されているのもそのためかと思われます。
この他にも、蜈蚣は山堀り師と関連付けられることもあることが、百々世が採掘を行っている設定に繋がっています。


まとめ
最新作である「東方虹龍洞」ですが、本筋であるアビリティカード関連の異変以外にも伊弉諾物質という大きな謎を残す作品となりました。
前日譚である「東方香霖堂」の最新話と合わせて幻想郷の経済制度が本格的に描写されたこともあり、新キャラクターたちとともに二次創作に大きく影響を与えることが予想されます。
今回も体験版の時と同じように順次各ステージと各キャラクターの個別考察記事も上げていこうと思いますので、もしよければ読んでいただくと幸いです。