体験版に引き続き、本記事では「東方虹龍洞」製品版の4面やそのボスである玉造魅須丸の元ネタなどについて考察してみようと思います。

↓「東方虹龍洞」の1~3面までの各考察記事はこちらです(体験版時点での考察になります)。





ステージ
「東方虹龍洞」STAGE4の舞台は「虹龍洞」で、ステージタイトルは「伊弉諾物質 Mine of Izanagi Object」です。
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4面の舞台となっている虹龍洞は今作のタイトルにもなっている鉱坑であり、そこは伊弉諾物質である龍珠の採掘場でした。
そんなことは露知らずに異変の解決のため自機は虹龍洞に突入するも、虹龍洞の内部は人間に必要不可欠な酸素が奥に行くほど徐々に薄くなっており自機勢にとっては非常に危険な環境でした。
そんな状況の中、たまたま遭遇した魅須丸に間一髪のところで引き留められ、なんとか虹龍洞を脱出して妖怪の山の頂上に向かうというのが4面のストーリーです。
このように虹龍洞の内部は一般的な科学に当てはめられない異常ともいえる環境になっており、有毒ガスが充満しているならともかく奥に進むにつれて酸素が減っていき無酸素エリアすらあるという洞窟というのは地球上の環境としてはまずあり得ません(水中洞窟などを除く)。
虹龍洞には伊弉諾物質である龍珠が眠っているだけあって、これにはまだ明かされていない何かしらの理由付けがありそうです。

本作の中でも過去作との関連性において特に話題となったのが4面のステージタイトルです。
体験版をプレイ済みの状態で、ようやく製品版を買って4面に突入したと思ったらいきなり「伊弉諾物質 Mine of Izanagi Object」というステージタイトルが出てきて目を疑った方も多いでしょう。
なにせ伊弉諾物質というのは俗に言う秘封CDであるZUN's Music Collectionの「伊弉諾物質」が初出だったからです。
まさか東方Project本編にも伊弉諾物質が出てくるなど夢にも思わなかったため、私も初プレイ時は大変驚きました。

↓伊弉諾物質の設定などは下記の記事でまとめてあります。


考察ですが、物質が誰の所有物でも無かった神代に意味を持っていた物質である伊弉諾物質のそれ自体に神にも等しい力が宿っているというのは、名付けられる前の純粋な力を操る純狐の「純化する程度の能力」とおそらく同じ原理が働いているのだと思います。
東方の世界観において極めて強力な力と位置付けられているこれらの神の力、間違いなく今後も需要な設定として出てくると思われるので要注目です。

4面道中のテーマ曲は「廃れゆく産業遺構」です。
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かつては日本国内にも鉱物や石炭を採掘する鉱山は数多くあり、その周辺は関連産業の影響で栄えそのための街ができるほどでした。
しかし、現在は人件費の高騰や資源の枯渇、公害問題などを受けて国内の多くの鉱山は閉山してしまっており、かつて鉱山で栄えた市町村の財政問題や人口減少などもニュースになっています。
この曲は、そんな鉱山跡へのノスタルジアをイメージした哀愁を感じさせる曲です。


ボス
「東方虹龍洞」4面のボスは玉造魅須丸です。
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玉造魅須丸は古の鉱物から勾玉を作り出すことのできる神様で、「本物の勾玉制作職人」という二つ名を持っています。
能力は「勾玉を作る程度の能力」を持ち、勾玉は生き物の魂を込める事が出来るマジックアイテムなので能力や気質、記憶までもコピーして収めることができます。
そのため、魅須丸は勾玉を使って能力をコピーしたり、相手の情報を読み取ったりする事ができ、作中の会話でも初対面の自機の名前を言い当てることができました(以前から一方的に知っていたらしい霊夢に対しては例外ですが)。
本作のストーリーでは大天狗(飯綱丸龍)が山から龍珠を採掘していると聞いて現地調査に来ており、たまたま遭遇した虹龍洞の無酸素エリアに近づこうとしている自機の身を案じて異変解決のヒントを与えた上で追い返しました。
引き続き虹龍洞の調査を続けていたEXTRAステージでもボス戦前の会話で登場し、自機を支援するためにアビリティカードを販売してくれるなど終始自機に協力的な態度で接していました。

上記の作中での活動を見て分かる通り、魅須丸は本作の新キャラクターの中では唯一異変である幻想郷でのアビリティカードの流通に売人として関わっていません(ゲームシステム上の購入は普通にできます)。
妖怪の山にも今回は調査に訪れただけなので、他の新キャラクター達とは設定上ほとんど関係がない本作でも特に異質なキャラクターです。
ただ、霊夢の使っている陰陽玉は実は魅須丸が作った物であるという驚愕の設定が彼女の口から直接明かされたこともあり、東方Projectというシリーズ全体で見ると非常に重要なキャラクターである可能性が非常に高いです。
また、魅須丸から霊夢は「陰陽玉の継承者」と呼ばれており、代々継承されてきた歴代博麗の巫女も「陰陽玉の継承者」である確率が濃厚です。

魅須丸から確定で購入できる固有のアビリティカードは「太古の勾玉」となります。
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七色の勾玉と魅須丸のシルエットが描かれたカードで、自機の真横から来る敵弾を消すオプションとなります。

魅須丸のテーマ曲は「神代鉱石」です。
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神代の鉱物である伊弉諾物質から勾玉を作ることができる魅須丸のテーマらしい曲名となっています。
解説の敵か味方か判らない謎の人物と対峙するイメージというのも本作での彼女の立ち位置にぴったりですね。


スペルカード
魅須丸は一部難易度ごとに名前の変わるスペルカードを計3回使用してきます。

Easy・Normal・Hard
・玉符「虹龍陰陽玉」
Lunatic
・玉符「陰陽神玉」

Easy・Normal
・玉将「クイーンオブインヤンスフィア」
Hard・Lunatic
・女王珠「虹の扉の向こうに」

Easy・Normal・Hard・Lunatic
・「陰陽サフォケイション」

魅須丸のスペカはどれも陰陽玉を使用した攻撃となっています。
弾幕の性質も同じく陰陽玉の使い手である霊夢の敵ボス時の攻撃と類似しており、やはり霊夢とは何かしらの繋がりが感じられます。


玉造魅須丸の名前の由来
玉造魅須丸の名前の由来ですが、まず苗字の玉造というのは勾玉や管玉などを制作していた玉造部(たまつくりべ)という古代の朝廷にあった職業部が由来でしょう。
本人も霊夢との戦闘後会話で「私が造った陰陽玉をそこまで使いこなせているとは玉造部冥利に尽きます」と発言しています。

下の名前の魅須丸は、おそらく御統(みすまる)という多くの玉(勾玉含む)を連ねて環状にした装飾品から取られたのだと思われます。
また、御統は御統玉(みすまるのたま)とも呼ばれます。
彼女自身も体にたすき掛けするような形で七色の勾玉で作られた御統を身に着けています。


元ネタ考察
キャラクターとしての玉造魅須丸のベースとなった元ネタとして挙げられるのは、前述した玉造部の祖神とされる玉祖命(たまのおやのみこと)です。
玉祖命は櫛明玉命(くしあかるたまのみこと)などとも呼ばれ、玉作湯(たまつくりゆ)神社や玉祖(たまのおや)神社などで祀られています。
日本神話においては天照大御神の岩戸隠れの際に後に皇室の三種の神器となる八尺瓊勾玉を作ったことで知られています。
ちなみに、古事記に記されている八尺瓊勾玉は一般的なイメージと異なり単一の勾玉ではなくみすまるの珠(御統玉)だとされています。


勾玉について
今作のみならず「伊弉諾物質」でメリーが手に入れるなど、東方の世界観において重要アイテムとして登場した勾玉。
そんな勾玉ですが数多くの謎を秘めた存在でもあるので色々と考察してみたいと思います。

まず、勾玉の歴史について解説しておきます。
勾玉が作られ始めたのはなんと縄文時代まで遡ることができ、古くは最低でも紀元前5000年以上前から作られていました。
ここまで古い時代にルーツを持つ日本独自の加工品は他になく、現代の日本に受け継がれてきた独自の文化の中でも断トツで最古の物と言えるでしょう(一例として、「東方鬼形獣」でピックアップされた埴輪が作られ始められたのは3世紀後半です)。
しかも、勾玉は現代でも継続して作られ続けており、今も神社で祀られたり祭具や装飾品になったりしています。

このように非常に古いルーツを持つ勾玉ですが、実は何を模して作られた物なのか判明していません。
名前の由来については曲がった玉という説が有力となっていますが、その形については現在でも諸説あるのです。
歴史上の勾玉自体にも
とりあえず提唱されている説の一部を以下に列挙してみます(複数起源の可能性もあり)。

・丸い頭の部分が太陽を、尾が月を表している説(または三日月単体の形を模している説)
・釣り針を模している説
・魚の形を模している説
・腎臓など人の臓器を模している説
・胎児を模している説
・獣の牙を模している説
・耳飾りを装飾品に転用した説


釣り針説については「伊弉諾物質」のブックレットでも「釣り針とも鍵とも言いがたい形容しがたい形」と表現されるなど否定形とはいえ釣り針について触れられており、「伊弉諾物質」頒布当時の時点でこの説が意識されて秘封倶楽部のストーリーに勾玉が登場していたことが分かります。


陰陽太極図(陰陽魚)と勾玉の関係性について
霊夢の陰陽玉の模様の元と思われる陰陽太極図(陰陽魚)☯ですが、実は現実世界でのルーツは勾玉とは全く異なります。
陰陽太極図は古代中国が由来の図案であり、道教における万物の根源である太極の中に陰陽が生じた様子を表しています。

では、なぜ陰陽太極図が日本で勾玉と関連付けられて扱われることがあるのかというと、それにはある間接的な理由があります。
日本には古来より伝わる巴という複数の勾玉状の模様が合わさって円形を形成する紋様があり、これは神紋や家紋とされたり太鼓の膜に描かれるなど現代日本人にも馴染み深いものかと思われます。
この巴の起源ですが、一説には勾玉を図案化したものと言われています。
(実際に起源かは諸説ありますが)少なくとも巴と勾玉は形が似ていることから、神道では古来より結び付けられて扱われていました。

その巴と類似している陰陽太極図が日本に伝えられた際、巴の一種と混同・同一視されるようになってその紋様は陰陽勾玉巴(いんようまがたまともえ)とも呼ばれるまでになりました。
このように勾玉と関連のある巴が陰陽太極図と関連付けられることで、全くルーツの異なる日本の勾玉と中国の陰陽太極図に関わりができたのです。

これらのことと、八尺瓊勾玉を作った玉祖命が元ネタと思われる玉造魅須丸が霊夢の陰陽玉を作ったというのを合わせて考えると、霊夢の陰陽玉はその名の通りの道教的なアイテムというだけでなく、しっかりと神社の巫女が扱うに相応しい神道の要素も含んでいることが分かります。


まとめ
伊弉諾物質との関係や霊夢の陰陽玉の製作者であることなど、玉造魅須丸は「東方虹龍洞」の他の新キャラクター達とは一線を画した存在として登場しました。
設定上明らかに後の作品に繋がるであろう数多くの要素に絡んでいるため、今後の活躍も期待できそうです。